外国人が日本語で書く時代

  • 2008/07/18(金) 08:10:44

7月18日付 芥川賞 外国人が日本語で書く時代 読売 社説コラム

 文学のグローバル化の時代を象徴する受賞と言えるだろう。

 今夏の芥川賞の受賞作は、44歳の中国人女性、楊逸(ヤンイー)さんが日本語で書いた「時が滲(にじ)む朝」に決まった。

 留学のために22歳で来日し、日本語を学んだ楊さんは、東京で中国語の教師などを務めてきた。

 外国籍では、柳美里さんのような在日韓国人の作家らが芥川賞を受賞している。しかし、日本語以外の言語を母語とする作家の受賞は、初めてのことだ。

 楊さんの受賞作は、1989年の中国の民主化運動に参加した男性を主人公に、天安門事件がもたらした挫折感や、日本に移住後の人生の哀歓を描いている。

 心理描写などに重点を置く日本の私小説とは異なって、人生や世界を骨太にとらえている。

 選考委員会では「人間が必死で生きている手触りが強烈だった」「国境を越えて来なければ見えないものが描かれている」などと評価された。

 海外から日本への“越境者”の文学と言えば、古くは明治時代に日本に帰化したラフカディオ・ハーン(小泉八雲)の「怪談」などが思い起こされる。しかし、日本文化を素材としたハーンのこの作品は、英語で書かれていた。

 近年は、日本語を母語としない外国人作家たちが、優れた日本語の小説を書き続けている。米国人のリービ英雄さんは野間文芸新人賞を、スイス出身のデビット・ゾペティさんは日本エッセイスト・クラブ賞を受賞している。

 「言葉の使い方で、たくさんのことを簡潔に表現できる」「ひらがなやカタカナを交ぜる表記のリズムが音楽のようでいい」――。外国人の作家たちは、日本語の特徴をこのようにとらえている。

 日本で生活する外国人は、既に215万人に達している。

 日本語作品を表彰する「留学生文学賞」には、アジアや中東、ヨーロッパなどの出身者から、年間約100作の応募がある。外国人による「日本語文学」の裾野(すその)は、確実に広がっている。

 ヨーロッパの代表的な文学賞であるイギリスのブッカー賞や、フランスのゴンクール賞でも、外国出身の作家たちの受賞が目立つ。日本から渡英したカズオ・イシグロ氏もブッカー賞の受賞者だ。

 こうしたグローバル化が、英語圏や仏語圏の文学を、より豊饒(ほうじょう)なものとしている。

 外国人の感性が刺激となって、日本文学にも新たな活力が生み出されていくことだろう。


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